とりぼっち

主に舞台の感想が好きなように書かれています。

【感想】舞台「コールド・ベイビーズ」

2月7日(金)、舞台「コールド・ベイビーズ」のマチネ公演を観劇しました。

公演が発表された当初は休みが取れなさそうで血の涙を流しながら観劇を諦めていたのですがその日にたまたま公休が割り当てられたのが分かった瞬間チケット取りました。奇跡、まさに奇跡です。つまりは東京日帰りということですがへっちゃらでした。つくづくイノサンで日帰りに味を占めたと思います。

以下、ネタバレを含んだ感想です。ご注意ください。

 

 

 

・終演後は穏やかな気持ちになれたストーリー

観終わって、すごく穏やかな気持ちでいられました。心が凪いでいる。友情とか愛情とかそういう情の話がすごく好きなのでとても良かったです。

少子化の対策として開発された人工子宮から生まれた“コールドベイビー”と、ある調査でモニターとして集められた若者4人がメインに据えられたストーリーでした。

集められた場所というのは人工子宮を作った研究所で、そこで4人1組(彼らはC組)で1泊するんですが何か人工子宮や人工子宮児に関わる大きな事件が起こるのかと予想していたらそういうことは全く無かったです。クーデター起きるんだろとか思ってたけどそんなことはなかった。

大きな事件は起きないけれど山場はもちろんあって、若者組の間で色々と問題も起こるんですが、此方は4人の友情が始まった瞬間から彼らを見ているので知らない間に感情移入していて、舞台上の話が終わってもこの先も続いていくだろう彼らの友情に温かい気持ちになりました。彼らの内面や家族のこととかを中心にストーリーが進行していくので上手に感情移入出来たのだと思います。だからこそさらにぐっときました。

彼らを近くから見ている研究所の大人2人がいるんですが、2人のやり取りが緩い。7割は緩かったと思う。主に善太さんの所為ですが善太さんはこの話と他の登場人物に必要不可欠な存在だと思うので許される。

 

・古谷草介(マークくん)

丁度登場人物の年齢が分かったんですけど古谷くんは21歳で若者4人の中では2番目にお兄さん。夕輝さんを諌める時の「いじわるですよ」という言葉選びがとても好き。柔らかい物腰と口調ですがバトミントンでノッてくるとキャラが変わる。あの条件での試合で夕輝さんと共に勝ちに行こうとするあたり勝負事は好きなのかもしれない。

実は集められた4人の中にはコールドベイビーがいて、それが誰か当てれば5万円が貰えるというのが序盤で彼らに告げられるのですが、その後の日記を使ったモノローグで古谷くんが自分がコールドベイビーであることを明かします。あまりにあっさり明かすのでスルーしそうになりました。ただひとりだけ白い服だったり雰囲気もふわっとしていたので「だよね」と思いました。

コールドベイビーには健康面でも精神面でも欠陥があると言われており、ポジションゲームでその欠陥が露になると大木(渡辺さん)は踏んでいましたが実際はその逆でした。古谷は朱羽を諭して4人の絆を強固なものにします。

最後古谷は他の3人に自身がコールドベイビーであることを知られますが、4人の友情が崩れることはありませんでした。焼肉美味しく食べてれば良いと思います。

そして古谷がモニターに参加した目的である“産みの母”である人工子宮と対面します。人の形さえしていない人工物の前で古谷は涙するのですがもしかしたら最初は自分を産んだ“人”と言っていた辺り“産みの母親”の姿に期待していたのかもと思いました。

抑えようとしながらも泣く姿はとても切ないですが、人工物から生まれたコールドベイビーだとしても人間であることに代わりは無いというのが古谷の今までの表情や感情から納得できて好きです。育ての親であるお母さんたちは良い人だと思うので今後も仲良くやっていってほしい。

 

 ・六川夕輝(順也さん)

チャラそうでちょっとしたワルにも見えるけど良い兄貴してました。絶対妹いると思うんですけど。ダメージジーンズはその内膝下あたりで分裂しそうだと思った。

イマドキの若者っぽくて5万円という小遣いが欲しいマンでしたがポジションゲームでちゃんと言った通りのカードを出すんだからそういった情には厚い人なんだと思います。だからこそ信じなかった朱羽への怒りなのかなあ。

コールドベイビーだと分かった古谷に対しても、自分がそれを当てていたことに喜びながらもちゃんと古谷を受け入れてくれる姿は清々しいです。

勝手に過去に何か闇を抱えていそうだと思っていたら日記が超絶シンプルで良い意味で裏切られました。「楽しかった!」の時の笑顔は此方も救われたような気持ちになりました。何だ、彼は救いの人なのか?これからも年下に焼肉を奢ってあげて欲しい。

 

・遠藤朱羽(コーヘイさん)

最初は他人の気持ちは二の次な孤高のインテリゲンチヤで事件を起こすなら彼か夕輝さんだなとか思っていましたがバトミントンでの彼に心を鷲掴みにされました。絶対運動苦手だとは思っていましたがまずジャージの上をズボンにインしているところで「あっなるほど好きかも」と思いました。ただ頭の良さから計算でどんどんバトミントンが上手くなっていく様子はとても格好良い。ただしポーズはダサい。

あのバトミントンの試合がなければ彼ら4人の友情は生まれなかったのでとても大事なシーンなのですが、あのシーンのほぼ全員様子が可笑しいので此方の情緒も可笑しくなりました。しかしお陰で朱羽が藤真たちに心を開いたのだと思うと素敵です。

ポジションゲームでは朱羽は夕輝さんを信じられず亀裂を生みます。頭が良い故にあらゆる可能性が想定できてしまったから結果的に夕輝さんを信じていないように見える選択肢を取ってしまったのかなと思います。古谷が言ったように藤真のカードに合わせたりする方法も彼には浮かんでいそうですが、そこはどういう気持ちだったのだろう。夕輝さんへの対抗心とか反発心とかが勝ったのだろうか。朱羽は親しい友人とかいなさそうなので、その行動を取って他人がどう思うかについてはまだまだ疎そうではあります。

実はC組の4人は全員コールドベイビーであり古谷以外の3人はそのことを知らないという設定なのですが、作中で語られるコールドベイビーの特徴に1番当て嵌まっているのは朱羽だと思います。一瞬マッドな部分を覗かせたりしますが大丈夫でした。他の3人が居たからだと思います。

日記では各々の家庭環境についても明かされるのですが、朱羽の家庭だけは親子間の愛情とかが不足していたと思います。離婚時に朱羽の一人暮らしは認めなかったので愛情が全く無いわけではないと思うのですが。アフタートークでコールドベイビーを養子に迎えるとお金(援助金?)が貰えると言っていたので朱羽の両親はそっち寄りの人だったのかなあ。

 

・中本藤真(石川くん)

初っ端から可愛い。癒し。全体の主人公かと思ったらそうでも無いけどバトミントンでは主人公していた。

とにかく言動が可愛い。本当に20歳なのかと思うほどあどけない。他の3人がしっかりしているのでさらに際立つ純真無垢さ。末っ子として家族に大事に育てられたんだろうなあ。物事に疎いのが伏線かと思ったが違った。

彼はコールドベイビーが愛情を受けて育つとどうなるかの答えになる人なのではと勝手に思っている。若干世間に疎いけど、可愛いから、本編の癒しだから。

 

・善太貴土(小黒さん)

個人的に今作のMVPだと思っている。この人がいなければバトミントンの試合で4人の友情が生まれることもなく、大木さんが笑えることもなかった。社会人としてはあれですが人間としては善の人でした。

上司の話に興味無さげに返事したり煎餅食べたりと大木さんだから良かったものの他の上司の前でやったらヤバイことを結構やっている。ノックは3回以上だと思う。

小黒さんの声が好き。声の出し方がとても良い。

 

・大木亜青(渡辺さん)

観劇前は絶対黒幕だなとか思っていましたが、静かに4人を見詰める様は黒幕とは少し違った。

実は世間にコールドベイビーの研究が発表されるよりも前に密かに産まれていた最初のコールドベイビーのひとりであり恐らくは唯一の生き残りでした。これだけ書くとマジで研究所や政府に反旗を翻すタイプのラスボスになりそうな設定だなと思いましたが、亜青は去年公演された舞台「カタロゴス青」の亜青であり主人公でした。主人公として生まれたが故の苦しみとかを今作で背負っていたように思います。

彼は自分を含めたコールドベイビーが嫌いです。C組にコールドベイビーを集めたのも人工子宮児に言われている欠陥を露にしたかったからです。

ただ自分には感情が無いと言う大木でしたが善太にあっさり感情があることを指摘されて揺らいでいきます。流石善の人。ポジションゲームで4人の絆が壊れなかったことに激昂しますが、怒る時点で感情のある人ですよね。

最初は古谷以外の3人がコールドベイビーである事実を告げようとしていましたが、古谷の話を聞き、結局その事実を告げることはしません。その時の間が堪らなく好き。凄まじい葛藤があったのではないだろうか。古谷がコールドベイビーであることは言いましたね。やはりそれを知った時の3人の反応は知りたかったんだろうなあ。拒絶するのを期待していそうだし恐れていそう。

ただそういう歪みを丸っと放り捨ててくれたのが善太さんじゃないですか……。最後に大木はぎこちなくも笑います。それが答えなんだろうなあと思います。

渡辺さんのスーツ姿がカッコいい!!

スペシャリストたちの夜でのシャツ姿にきゃっきゃ言ってましたが盲点だった……こんなに格好言いとは……!

今まで見た渡辺さんの役は明るいものばかりだったので今回の大木はとても新鮮でした。表情が変わらないし常に眉間に皺が寄っている姿にどっきどき。バトミントンのシーンでは抑え気味ではあったもののはっちゃけてました。座る時に背筋がぴんと伸びていてとても好き。

 

・コールドベイビー

割と差別されているようですが、4人を見ていると普通に産まれた人と変わらないように思えます。古谷はもしかしたら体が弱いのかも知れないが掘り下げはなかったので大丈夫そう。藤真と朱羽はかなりの個性の持ち主ですが夕輝さんとか何処にでも居そうな兄ちゃんです。

公式のストーリーに書かれているように育った環境で内面も変わるのでしょうが、亜青には亜青の感情がちゃんとあると思いました。

 

・終わりに

観て良かった! これに尽きます。

お話としてとても好きです。登場人物もそれぞれ個性があってそれが分かりやすく伝わってきました。特に大木さんが好きなのでそりゃあ今作のエピソードゼロであるカタロゴス青も観たくなります。どうやら映像化するそうなので何としても観たい。

座席も正面に渡辺さんが立ってくれる位置だったのでとても神席でした、ありがとうございます。