とりぼっち

主に舞台の感想が好きなように書かれています。

【感想】舞台『GRIEF7 Sin#002』

一作目の謎だけを倒置して終わる潔さに流石だなと思いながら私がよく知る役者さんが多数出演し、かつ言葉にし難い作品全体の魅力に惹かれ、舞台『GRIEF7 Sin#002』観劇してきました。9月21日大阪初日、22日マチネを観てきました。1回目で見えなかったところが2回目では見えたので満足しております。

以下、ネタバレを含んだ感想です。ご注意ください。

 

 

GRIEF7も脚本を三浦香さんが担当しています。私のハートを悉く鷲掴みしてくるのが三浦さんの脚本です。好き。

母が同行してくれたのですが公式HPにあらすじが載っていないので私が説明下手なのも相まって上手いことストーリーの良さを伝えられない。最終「刑務所の話」で収まりましたがちょっと違う気もしている。

 

・愛に狂う話

登場人物みんながそれぞれ愛に狂っていました。愛は素敵なものですが、時に人を傷付けよくないことを引き起こすトリガーでもあるのでしょう。

カワイが「愛は人を殺害に駆り立てる」と言ったのが印象に残っています。実際に人を殺しているのがエディ、ウォン、エヴァン、ムラセですが、カワイは間接的にやってそうですし他の人も後々明らかになることがあるのではないかと思っています。

 

・to be continued.

上記はカワイの最後の言葉なんですが予想を裏切らず特に何か解決するってことはありません。明らかになったことは色々ありましたし、それぞれのキャラのストーリーを見ているのは楽しかったのですが全体的に解決したことはない。ムラセに至ってはえらいこっちゃです。

 

ただキャラの魅力は増し増しです。

 

・エディ

そういえば寿司屋だったなと思えるくらい中華料理屋にいた。前作だと黒幕っぽいイメージでしたが、実際はカワイの“手下”として動いていました。そうなった経緯は日本でのアイドル時代に繰り返された女性との性接待が心の傷となり、その後参加したドラッグパーティで一人の女性を殺害し、それをカワイが揉み消してくれたからでした。エディの過去は割りとさらっと明らかになり、その時のエディもあっけらかんとしているのですがどう考えてもヘビーです。この辺りはカワイの狂気度が増し増しなので霞んでますが殺人自体をあまり気にしていないようなエディも狂気度は高い。その後カワイは捕まりますがエディが捕まることはありません。カワイのことを笑顔で憐れむエディにはやはり狂気を感じます。

エディの愛は接待相手に向けられたこともあったのでしょうか。愛が向けられてはいそうです。その辺り掘り下げられるといいなと思っています。リュウを可愛い弟分として扱っているのは今作も変わらずです。エンディングではリュウのうちわが登場します。

信頼と実績の歌唱力の米原さんはやはり凄かった。声量が凄い。あと目許がくっきりしててイケメン。劇中でもちょっといじられていましたが確かにお足が短い。しかし上半身はがっちりしている。そしてイケメン。

劇中アンサンブルのお二人が炒飯を投げ合うシーンがあるんですが、22日はそれに2回失敗して終わるかと思ったら米原さんからワンチャン貰って成功していました。その時の米原さんがツボに入ったのかにっこにこで、もう一回炒飯投げ合いシーンはあるんですがその時も初日よりテンションが高いし、スタイリッシュに炒飯をキャッチしていました。そういう無邪気なところが好きです。

 

・カワイ

前作では心理カウンセラーとしてリュウやグニョンに寄り添っていたカワイは今作でも無償の愛でウォンに寄り添います。カワイに掴みかかる様にしながらウォンが怒り叫ぶ時、カワイの手は優しく彼の背中を撫でたりしていて好きです。2回目の方が優しみが増してました。正に慈愛。

願望も入ってましたがてっきりいい人ポジションで終わるのかと思ったら黒幕ポジションでした。目的のためにエディを動かしていた人。別名・アイ。アイ=愛、アイ=AI=人工知能などが考えられて楽しい。松波電工が開発した人工知能をエディを使って盗み出し、アメリカに持ち込みます。カワイについては情報量が多すぎてどうしたらいいのか分からないんですが、事を成そうと思ったら“愛に狂って”囚人となったようです。愛を抱くことには人間臭さを感じますが、正体が判明した後と前とでは彼の浮かべる笑みへの印象が変わります。

エディの過去の殺人を揉み消し、彼の再びの不祥事を受けて引退させたのもカワイだと思われます。そして密会の場を得るためにエディにウォンの店を斡旋しているので、事前にウォンと知り合っていたのも計算の上でかも知れません。彼も他人の殺人やそれを揉み消したことなどを特に何とも思っていなさそうで、無償の愛の後ろに狂気と冷徹さが見え隠れしていて、何も知らないリュウやウォン辺りがどういう影響を受けるのか怖いけど楽しみです。

観返して理解を深めたいのは刑務所に入れられてもカワイは目的に向かって動いているのかどうかということ。最後カワイは溜め息を吐いてから振り返り愛について語り出します。彼にとって自身が愛に狂ったこと自体が誤算だったんじゃないかと思います。エディは彼が捕まったことを喜んでいる素振りでしたが刑務所内の誰かにUSBを届けようともしています。そしてカワイのパソコン上の協力者だったサムは恐らく自主的にカワイに会いに来たように思えます。サムのことは嬉しい誤算だったようにも思えますが、カワイはいまも水面下で動いているのでしょうか。それともエディが独自に動いているのだろうか。

ClubSLAZYでの最推しがDeepさんということもあり、生の加藤さんを見るのをとても楽しみにしていました。やっぱりダンスも歌もうまい。30代後半に見えないあどけない笑顔が好きです。あとダンスの振り付けを間違えた時の「あっ」て隣の人を見た時の笑い顔も好きです。Deepさんの愛され末っ子陽キャライメージが強かったので正体が明らかになったカワイの狂気を孕んだ笑顔の演技が凄いなと思いました。加藤さんの喜怒哀楽の演技が好き。最後の挨拶で隣の三浦さんとよくひそひそ話していて気になります。私もカワイの見切れが見たかった。

 

・サム

前作で言っていたように悪いことをしに来たんだと思います。言わなくていいことも言いまくり人の心の傷に塩を塗り込むスタイルでしたが、娘を想い涙を流すウォンに対して何も言わずにバンダナを渡す憎いヤツでした。

“アイ”であるカワイの協力者であり、彼がアイだと気付いていて最後自分の正体を明かします。カワイとは利害が一致しているから協力しているのだと思いますが、今後カワイを利用するのか利用されるのか、襤褸になるのはどちらなのか少し楽しみに感じてしまうのは私の狂気度も上がっているからかもしれない。サムはIQ250の天才ですが、カワイも先見の明があると思うので一筋縄では行かないでしょう。ちょっと良いヤツ感を出してしまったのでサムの方が不利かもしれない。あと頭の良さで言うとエディは悪知恵が働くタイプに思えます。

SHUNさんはラッパーなの? 本当にただのラッパーなの? 癖のある演技が癖になります。

 

・ムラセとエヴァ

彼らは衝撃的で悲劇的でした。もうセットでしか考えられませんが今後セットで出てくることはないのでしょう。

学生時代はひとりぼっち同士友達の様な関係でしたがある女の子のことで喧嘩別れし、数年後にアーロン殺害の容疑で捕まったエヴァンが釈放された際に再会します。

この二人は片方が歩み寄ろうとするともう片方が突き放すスタイルなので似た者通しと言えばそうなんですが見ている此方としては「何やってんの……」という気持ちが強い。分かり合えそうなのにそうなならなくてもどかしい。

学生時代、生きるために男に身売りをすることにしたと言うエヴァンにムラセが考え直すように言いますが、エヴァンは自分を怖れているムラセの本心を突いて殴り合いとなります。そこで新たな友情が生まれれば良かったんですが世は無情。そして容疑が晴れたエヴァンの釈放後、会いに来たムラセにエヴァンが自身の身の上を語ります。何故それを昔に教えてくれなかったのだと憤るムラセに友達ではないからと言いつつ信じてほしいと彼を抱き締めます。その時のエヴァンの発言も不味かったですし、ムラセにも何らかのトラウマがある様で、錯乱した彼はエヴァンを射殺しました。エヴァンは人を殺したことがありましたが、それはアーロンではなく別のマフィアの男でした。ただムラセにとっては人殺しであることには違いなく、結局エヴァンを受け入れることなく正当防衛を主張したのでした。

その後の茫然自失としたムラセは見ていて非常に楽しかったですが、二人が迎えた結末にはやるせない気持ちになります。

 

・ムラセ

エヴァンとの話がメインですが、サムを監視していたり過去を暴かれたりエディとも絡みます。前回のUSBについては特に触れられていなかったはず。彼がリュウを気に掛けるのには意味があるのでしょうか。

学生時代はいじめられっこでエヴァンが唯一の友達でした。その時着ているジャケットが芋臭くて袖から手が出ていなくて好きってなります。

別の看守に“女”(=エヴァン)の話をされた時、エヴァンに手首を掴まれた時、ムラセは足を掻き毟ります。これはエヴァンに対しての反応なのか、それ以外のトラウマを抱えているのか明らかになってほしいです。後者だと良いなあとエヴァンを贔屓してしまう。ムラセはエヴァンを否定しますが、エンディングでは彼を追い掛けようともしているのできっと友情はお互い確かに感じていたのだと思いたい。

エンディングでリュウのうちわを腰に差して登場する可愛らしい三浦さんですが、そのエンディングの歌の間ムラセではなく完全に三浦さんで笑顔を見せてくれるのでムラセで暗くなった気持ちが少し救われる。他のキャストさんが前に出る時常に手をぱちぱち叩いていて好きです。

 

エヴァ

思考回路がちょっと飛んでいる気がするのでそりゃあムラセも苦労するよなと思ったりします。何度かムラセを抱擁しますが最後の抱擁は優しさに満ちていて余計に辛い。手の振り方が独特で癖になります。女役で中性的に見えますが時折男性的な口調を使うのが私のツボを突いてきます。

アーロンと関係を持っていて捨てられて憎んでもいましたが、それでもやはり彼のことを愛していたと殺害を否定します。ムラセには嫉妬していたと言いつつ、学生時代に自身の好みの女の子とムラセが関係を持ったらしい時には女の子よりもムラセのことを知りたがったりと、彼にも愛情を抱いていたのではないかと思えてしまいます。

え、何か手足の長い人がいる、が中山さんへの第一印象でした。手足だけでなく胴体も首も長いぞ。恐るべき11頭身です。スタイルが良いのでふわっとした衣装が似合うし、鞭みたいな手足や露出した肩には色気を感じます。特にアーロンと踊る時のアダルティな雰囲気がヤバい。終わりのアナウンスではロドリゲスが言えなくて諦めていました。

 

 ・ウォン

大穴ウォンさん、私追いブロ。黒人の青年を殺害した罪で逮捕された中華料理屋の店主で、カワイのカウンセリングを受けていたりエディを雇っていたりエヴァンとも会ったことがあったりと色んな人と接点がある人です。ただこの人の話はほぼ完結したと思うので、全体の話の中心にはならなさそうです。真面目で人の言うことをすぐ信じたり、いい人オーラが凄いのでカワイやエディに利用されないか心配。

吉田さんの歌声が好き、私追いブロ。前髪を掻き上げる仕草素敵。ウォンの怒りと絶望の演技は見ているこちらの胸を締め付けます。あと手を上げて踊っている時ひとりだけ小指を立てていて何故って思います。癖なのでしょうか。

 

・アーロン

良い人ではないのでしょうが、エヴァンに別れを告げる時の声色から色々考えたくなります。本当にエヴァンのこと何とも思っていないわけじゃないと思うんですよね。

こんなところで倉貫さんを拝めるとか幸運でした。相変わらずダンスがごりごりのばきばきで素敵です。エヴァンの歌の時加藤さんとバックダンサーを務めてどきっとし、初日の最後の挨拶でハッシュタグのネタに困って加藤さんに助けを求めた時に「元弟」発言が聞こえてきて私のテンションはどうにかなりそうでした。客降り時の無表情嫌いではない。

 

JustCrewのお二人も色々な役をやられていてお疲れ様です。記者のアロハシャツ1回目と2回目では色が違った気がします。膝のごつっとした感じが好きでした。

 

・おわりに

実は原作小説も読みまして、ごっそり精神を削られました。カワイ、お前ってやつは……。舞台はほぼ別物と思って良さそうなのがまだ救いかもしれません。

エヴァンというツボキャラが生み出されたことに感謝しつつ、どう考えても今後中山さんが演じるエヴァンは見れないだろうことが非常に残念です。その分ムラセには頑張ってほしい。

「愛」がキーワードなのかなと思っているのですが、登場人物たちは誰かに愛を向けて狂っていく人もいれば、誰かに愛を向けられて狂っていく人もいるんですよね。綺麗なだけでの愛ではないのがこの舞台を重いものにしています。加えて「人を殺す」こともキーワードの一つではないかと疑っています。

観劇後家に帰ってから一作目を観返したんですがやっぱりさっぱり意味が分かりません。ただし今の私は完全にGRIEF7ロスに陥っている自覚があるので恐ろしい中毒性のある舞台なんだろうと思います。何が何でも続きをやってほしい作品となりました。