とりぼっち

主に舞台の感想が好きなように書かれています。

【感想】朗読劇「ノンセクシュアル」(スペードバージョン)

蒼佑役の鯨井さんの感想をちらほら目にし、朗読劇「ノンセクシュアル」のチケットを購入するに至りました。スペードバージョン、クローバーバージョンの2種類があり、バージョンごとにメインどころの3人の役が違ってきます。私が観たのはスペードバージョンになります。鯨井さんの蒼佑が見たかった。

結論から言うと、その日の夜は興奮してなかなか寝られなかったです。こんな気持ちはもしかしたら小さい頃に猿の惑星を初めて観た以来かもしません。猿の惑星も私の中では結構な衝撃作でしたがノンセクシュアルも凄かったです。

最終日に衝動が爆発したので1回しか観なかったのですが、クローバーバージョンも観たくなりました。

以下、曖昧な記憶+ネタバレを含んだ感想です。ご注意ください。

 

 

 

これはもう感想というよりは衝動書きに近いです。

鯨井さんに全部持って行かれた。

興味があったのも鯨井さん演じる蒼佑。観終わった後も頭の中を占めるのは鯨井さん演じる蒼佑でした。

ノンセクシュアルの公式サイトには登場人物のことが割と詳し目に書いてあります。劇中で触れられない設定も書いてあるので細かな設定好きとしては非常に楽しい。これを読むとそれぞれの登場人物がどういう人なのか分かります。ただ読んでいないと劇中での彼らの言動がちょっと分かり難い部分もあるような気がしました。

前も書いたような気がするんですけど、オリジナルの舞台ではキャラ萌えから始まりそこからずぶずぶとのめり込んでいくタイプの人間なので、設定を読んだ時点で蒼佑のこと結構好きでした。好意を伝える努力が空回りするのすごく好きです。でもここまで気になるのは鯨井さんが演じるからなのだろうとは最初から悟っていました。

 

瑛司が塔子に襲われていたところを助けたことで、蒼佑と瑛司は出会います。

初っ端から話が逸れますがここの塔子さんのアグレッシブさ嫌いではない。瑛司を物理的に抱くつもりなのかとも思いましたが、どうなの? 胸の下りが言い方とか含めて好きでした。

瑛司は主人公枠でいいのでしょうか? 最初の蒼佑とのやり取りなんかを見ていると、瑛司は人懐っこい印象を受けます。相葉さんの演技がすごくそう思わせる。人懐っこくて笑った顔が何だか可愛い。誰にでも好かれる感じ。そしてやらかしてビンタされる感じです。全体的に見ると瑛司は蒼佑に振り回されていましたが、瑛司も他人を振り回すタイプだと思います。見方を変えると蒼佑も瑛司に振り回されたひとりなのかもしれない。いや蒼佑がやったことに対して瑛司は悪くないのですが。

助けてくれた蒼佑に対して瑛司が向ける笑顔なんかはすごく此方に興味を持ってくれているような笑顔で、蒼佑がのめり込むのも分からなくはない。のめり込み方が凄まじかったが。

瑛司は自分の気持ちに正直というか奔放なので、蒼佑をノンセクシュアルと見抜いて興味を持ち(だったはず)友人関係を築きます。

蒼佑も瑛司に好感を抱いており、彼がバイセクシュアルと知った時は一瞬の動揺を見せましたが、その後の関係を途絶えさせることはしませんでした。蒼佑は瑛司からバイであることを伝えられた時は食事を取り止めて一度帰っています。その後、ふたりで再び会っているシーンに映るのですが、この描かれなかった時間の中で蒼佑がどういう風に自分の気持ちを整理したのかとても気になります。結論的に蒼佑がどういう気持ちになったのかは劇中で描かれるのですが、そこに至るまでを見てみたかった。どういう風に鯨井さんが演じるのか見てみたかった。

蒼佑が“親友の証”として瑛司にお揃いの指輪をプレゼントするシーンがすごく好きです。好意を伝える努力が空回りしてる。私はこうやって不器用なキャラクターが好きなのかもしれない。瑛司はそんな友情を初めは拒絶しますが、蒼佑が激昂したため指輪を嵌めます。どの指に嵌めたのだろう。蒼佑の感情のヒートアップ具合が本当鯨井さんうまいなあと言うか、イコールヤバい奴に完全に繋がるのですごい。先入観ももちろんありましたが初登場時からちょっと普通の人ではない空気感の作り方が素敵でした。

 

時系列に少し自信がないのですが、この後瑛司と友人・侑李のシーンがあります。侑李はこの作品のトリックスターというか柔らかい部分というか圧倒的ボケというか。我が道を突き進んでいます。侑李の登場人物の項は私のツボに入るキーワード一杯なので是非見てほしいのですが、彼はアセクシュアルで人に性的な愛情は持ちませんが、それとは別の“情”は深い設定です。よいですね、そういうの本当ツボです。蒼佑に興味を持つとあったので死亡フラグかなと思いましたし、瑛司から借りた指輪が抜けなくなってそのままマンションを出たところ(恐らく瑛司に肩に腕回されてる)を蒼佑に見られたりしていて完全にフラグ立ったなと思いましたが大丈夫でした。彼は彼のままとくに変わることなく舞台の幕は下ります。

 

むしろ蒼佑から狙われたのは瑛司の元カレ(でいいはず)・秀樹と、元カノ・塔子でした。二人に未だ残っていた瑛司への情が、殺されることによってはっきりと分かるのが切ないです。秀樹は本当に運悪く巻き込まれただけというのも悲しいですね。死亡した二人ががくんと椅子に座り込む演出好きです。もうそれから照明が当たることはないのでぼんやりとしたふたつの影だけが舞台上に見えています。

 

※ここが一番記憶に自信がない場面です。

ストーカー的な行動に出始めた蒼佑から身を隠していた間に秀樹と塔子が“自殺”し、蒼佑からも彼の実家で自ら命を絶つという連絡を受けます。以前に秀樹から蒼佑の家のことを聞いていた瑛司はそこへひとり駆け付けます。不気味がらず面倒臭がらず、駆け付けてくれる瑛司は根が優しいというか純粋に思える。そういうところが秀樹や塔子からも矢印を向けられ続けていた要因かもしれない。

蒼佑が二人を殺したことを瑛司が気付いたのと同時に、蒼佑の過去が明らかになります。元々秀樹の口から蒼佑の両親と弟は一家心中によって亡くなったということが語られていましたが、その真相です。

蒼佑は義母に性的暴行を受け、ふたりの間には男児が生まれます。義母の目的は愛人を作る夫(蒼佑の父親)に自分の許に戻って来てもらうために“夫との間の子ども”を作ることでした。夫は男児を自分の子どもとして受け入れます。つまり、蒼佑の父親は愛人を作りながらも義母ともそういったことをしていたということでした。

もうこの場面は怒涛の鯨井さんです。どっろどろの感情を吐き出す鯨井さんの蒼佑です。こういう過去の話を登場人物が口頭だけで説明してその時の場景は聞き手の想像に委ねられているの堪らなく好きなので私のテンションは上がるばかりでした。

一家心中と言われていたものは実際は蒼佑が“弟”を転落死させ、義母を父親が突き落とすように仕向け、最後に父親に義母と“弟”の真実を告げて飛び下りさせました。蒼佑が手に掛けたのは“弟”だけで、父親は自ら飛び下りたという解釈なんですが、蒼佑が落としたという解釈もできるような気もします。

 

義母とのことが蒼佑の異常性の原因です。性的関係への嫌悪感の原因ですよね。あとは“愛情”に対しての歪みみたいなものも生まれたと思います。

疑問なのは三人が亡くなったのはいつ頃なのかという部分です。瑛司が蒼佑と出会った時、彼はたしか「法要帰り」と言っていました。“弟”も幼いような描写があるので、三人の死からは結構時間が経っているのでしょうか。

 

瑛司は蒼佑にとって本当に理想の存在だったのだろうなと思います。瑛司を自分と同じだと勘違いする出会いもそうだし、瑛司が実家の狩猟を理解してくれたり、『ネメシス』(瑛司が作詞とボーカルを務めるバンド)の愛を否定する歌詞だったり、瑛司自身他者から愛されるタイプの人間だったり、色々な条件がうまいこと噛み合った出会いだったのかと。運命的な出会いだったからこそ瑛司のことを大切に大切にして凄まじい執着を持ったのだろうと思います。

 

監禁され窮地に陥った瑛司を侑李が助けに来てくれます。今まで見てきた侑李のまま、焦りも動揺も何もないいつも通りの侑李が助けてくれます。すごい安心感。ライフル構える姿は絶対格好良い。

逃げようとした時、蒼佑が戻ってきます。このシーンの演出方法と鯨井さんの演技にすべて持って行かれました。

今回舞台上、それぞれのキャストさんはシートの貼られた囲いの中に入って朗読・演技をしています。これは感染対策だと事前にアナウンスされていました(はず)。

先のシーンではそれを扉に見立てて、瑛司に逃げられると気付いた蒼佑がポケットナイフでシートを引き裂いていきます。つまり蒼佑は鬼の形相で家の扉を壊そうとしているということです。個人的にはシャイニングのイメージです。まさかそんな風に感染対策として使われていたセットを使ってくるとは思っていなかったので精神的には椅子から転げ落ちました。元々思い込み激しい方でしたが、もう常識ひっくり返されたような気分でした。あと照明。蒼佑を明るく照らし出す照明はおどろおどろしく感じられて、蒼佑がさらに不気味に映っていました。

その時の鯨井さんの演技。音声としては瑛司の名前を叫ぶだけですが、その時の絶叫っぷり大好きです。そこからの動きや表情の演技も堪りませんでした。扉を破ろうとしている時の表情はほぼ狂気的ですが、パトカーのサイレンの後、崩れ落ちた蒼佑の表情は一変して狂気のスイッチが切れたようなものになります。正気ではないが、蒼佑としての正気に戻ったような顔。

鯨井さんの表情の作り方巧みだなあと思います。鉄ミュ3の「とーかいどーと呼べ―!」の後、進化の過程を見せられますが、最後の進化で顔の前で手をスライドさせた時の一瞬で表情変えるのを見た時からそう思っていました。

 

・まとめ

初の朗読劇でしたが、予想よりも動きがあってとても楽しかったです。「ノンセクシュアル」の設定もキャラクターもすごくツボで話にどんどん入り込んでいきました。

最後、蒼佑は逃げ去り、瑛司のことは諦めておらず、とても冷静に穏やかな気持ちで次の機会を狙っているので、“瑛司と蒼佑”の話はまだ終わっていないのが恐ろしい。瑛司は時間の経過と共に油断しそうで大丈夫かなと思います。蒼佑は決して諦めない。侑李は生き残ってほしい。

最後の演出方法でアッパーかまされて興奮しまくって後輩に感想を伝え、ふたりで鯨井さんの演技について盛り上がりまくりました。これが通常の舞台だったのならさらにすごい演出とかあったのかなと期待しかありません。

衝動的な視聴でしたが、観られて本当に良かった作品でした。もう一度観たい。